会社設立体験談 vol.2: 【介護事業成功のポイント】ケアマネージャーさんとの信頼関係を構築し、地域に応援してくれる人を増やすこと
私の事務所ではこれまで200社以上の介護事業の開業を支援していますが、なかには開業後に集客に非常に苦労しておられる方もいらっしゃいます。その理由は、特に異業種から介護事業に参入された方に多いのですが、地域とのかかわりが薄く、ケアマネージャーさんの人脈がないことです。
日本政策金融公庫の資料によると、利用者の紹介はケアマネージャーからが6割強を占めます。
開業したら「紹介します。」と言ってくれるケアマネージャーさんを何人知っているかは、開業後の成否を決定する鍵となります。
今回ご紹介する訪問介護事業者様は、前職で勤めておられた時から地域のケアマネージャーさんとの信頼関係を築き、相手目線に立った対応を徹底することで順調に利用者を増やすことに成功しておられます。
今回インタビューさせて頂いたのは、大阪市住吉区で訪問介護事業所を開業された株式会社こころの宮永様と森川様です。(お二人はもともとプライベートでもパートナーです!)
インタビューでは、こんなお話をうかがいました。
・会社を設立したきっかけ、想い
・集客の秘訣
・想定していたよりも大変だった人材獲得
・今後の事業展開について
自分たちの思うようにやってみたい
—会社を設立されたきっかけは?
宮永社長:
当時は自動車関連のパーツ販売を個人事業主として10年余りやっていたのですが、車を持つ人自体が減って業績が振るわなくなり、事業をたたむことを考えるようになりました。
年齢的にも40歳を超えていたので、何か新しい事業を始めるには早い方が良いと思っていたところ、パートナーの森川が勤めていた和菓子屋さんを辞めて介護事業の学校に通うというので一緒に乗っかった、というのが介護の道に進んだきっかけです。
もともと介護に興味があったわけではなく、必ずしも自分で事業所を立ち上げたいという強い思いがあったわけでもないのですが、これから需要が高まって人材を欲している業界だと思ったので、選択肢として良いだろうと思い、一緒にやることにしました。
その後、基礎研修を受けるために6ヵ月間学校に通いました。
数ある介護事業の中でも訪問介護を選んだのは、学校に通うことでサービス提供責任者という管理職の立場からスタートできる資格が得られるからです。
学校を卒業してから2人とも別々の介護事業所で数年間勤務し、介護福祉士の資格も取得しました。その後、2人で訪問介護事業所を立ち上げました。
自分自身は石橋をたたいて割ってしまうほど慎重な正確なので、自分で事業所を立ち上げる気はあまりなかったんです。
森川の方がイケイケで、「自分たちの思うようにやってみたい」という強い思いを持っていたので踏み切ることができました。
—森川さんはなぜ起業したいと思われたのですか?
森川さん:
まず、学校を出てすぐに勤務した事業所で管理者として経験をつむことができ、こんな風にすればいいんだ、とつかめるものがありました。
また、どうしても雇われている中では自分の想いが通せないのがもどかしいという思いもあり、自分たちの思うようにやってみたいと思いました。
—二人で一緒に起業されたことのメリットはありますか?
宮永社長:
お互い、一人だったらここまでできていなかったと思います。
二人は目指している部分は同じなんですが、考え方もアプローチも違う部分があり、言い合いになることもあります。とことん議論をして、相談しあいながら妥協点を見つけてやっていっています。ぶつかり合うこともありますが、一人の時と比べて、二人でやることで3倍にも4倍にもなっているという気がします。
お互いを尊重して弱点を補いあいながらやっていけているのではないかと思いますね。
ケアマネージャーさんとの信頼関係がポイント
—集客に対して不安はありませんでしたか?
森川さん:
前職で勤めていたころにケアマネージャーさんとの信頼関係を結んでいたので、大丈夫だと思いました。
自信があるわけでもなかったんですが、きちんとやることをやっていけばなんとかなると思い、不安はありませんでした。
ちょうど前職で、ここでできることはやり切ったな、という思いを感じて勤務先を移ることも考えていた時期でした。いつか立ち上げたいと考えていたので、やるなら今しかない!と思ったんです。
—起業を考えた時に最初にとられたアクションは?
森川さん:
ネットで検索して、介護の開業に強い松本会計事務所のホームページを見つけました。たくさんでてくるサイトの中を色々見て、ここだ、と直感で決めて無料相談に行きました。松本先生に「やったらいいんだよ!」と背中をおされて決断しました。
松本:
数多くの方から相談をうけていますが、この人だったら成功する、と思ったからそう言ったんだと思います。
顧問先になってほしいから言ったわけではなく、だめだと思ったら、だめと言います。
やったらうまくいくと確信を持ったんですね。
森川さん:
無料相談でいろいろ話を聞いて頂く中で、こうしたら開業できるんだとイメージできたのが大きかったと思います。一番不安に思っていた開業資金についても相談にのってもらえて安心できました。
—資金に関してはどうされたんですか?
宮永社長:
日本政策金融公庫で融資を受けました。松本先生に相談させて頂いて、返済計画も立ててもらいました。売上の見込みがこれくらいあるので、これぐらいの資金があればやっていけるというのがイメージできて決断ができました。
お客さんがある程度見込めていたのが大きかったと思います。
ケアマネージャーさんからも早く開業しないの?待ってるよ、とお声がけを頂いてもいたので、売上の見込みがある程度たてられたのが良かったと思います。
どの利用者様からもクレームがでないサービスを
—会社設立にあたっての理念や、心がけたことは何ですか?
森川さん:
どの利用者様からもクレームがでないサービスを目指しました。
希望されることは利用者さんごとに違いますので、一人一人の望みに寄り添って、これをすると喜ばれる、これをされると嫌がるというのを考えながら対応することを心がけました。
また、ケアマネージャーさんや利用者様のご家族への報告を丁寧にすることにも気をつけましたね。どんな細かいことでも逐一報告するよう心がけました。それが信頼につながったんだと思います。
あるケアマネさんからは、他の事業者さんが何一つ連絡をしてくれないので、不安を感じて事業所を変えたいということでうちにご紹介いただいたこともありました。どんな仕事でも同じで、紹介した方は気になりますし、報告するのは当たり前だと思いますね。
—利用者様が順調に増加しているようですが、そのポイントはなんだと思いますか?
森川さん:
介護事業はどんなに良いサービスを提供しても、介護保険から支給される金額である程度売上額というのは一緒なんです。それでも、少しでも良いサービスを提供するというのを徹底してやっていったことで利用者様の増加につながったと思います。
例えば、従業員の髪の色とか、ネイルとか、身だしなみにも気をつけるよう指導しています。利用者様目線に立って、気持ちよく過ごして頂けるようにと事業所全体で徹底しています。
経営者になると決断の連続
—想定外に大変だったことはありますか?
宮永社長:
介護事業は(構造的に)お給料もそんなにたくさん出せる業界ではないんですが、やはりある程度のお給料が出せなければ良い人が来てくれないというジレンマがありました。最初は我々2人に加えて、登録ヘルパーさんに5人来ていただいたやっていたんですが、事業を拡大していこうとするとやはりまずは人材を確保する必要がありました。
もともと地域の行事などでつながりのあった知人に正社員として来ていただくことになり、信頼できる仲間も一人連れてきてくれたのですが、その方たちのそれまでの勤務先での給料が結構高かったので、同じ給料をだしていけるか、それに見合った仕事を本当にこなしてもらえるのか、支払っていけるかどう迷いました。
ただ、先に人材を確保しなければ、大きな仕事もとっていけないので、そこは決断だと思って清水の舞台から飛び降りる気持ちで採用を決めました。
蓋を開けてみると、ヘルパーさんとしては一流だったのですが、責任者として来ていただいたのに、自分たちの求める理想とは違っており、もどかしい思いがありました。しかしそれでも、気持ちよく継続して働いて頂きたいので、いかに定着してもらえるか、ものの言い方や指導の仕方にも気を遣いました。今では安心して任せられるまでに育ってくれました。
事業が拡大した時に、そこで管理者となってもらえるぐらいに育って頂きたいと思っています。ただ、こちらが求めすぎてしまうというのもあるんですが、その辺のコントロールは難しいですね。
人材の採用と定着は、今でもやはり一番の課題です。
有難いことに、最近新たに一人入って頂いた方は非常に向上心がある方で、非常に頑張って頂いています。
一度、派遣で紹介して頂いたこともありますが、最初から高額な給料を希望されたこともあり、後々もめるのも嫌だったので、喉から手が出るほど人はほしかったんですけど、お断りしたこともあります。
人手が足りないと、とにかく誰でも良いから来てほしいと妥協して採用してしまいそうになりますが、合わない方を採用すると後々トラブルの原因となると思い、踏みとどまりました。その決断は正しかったと思っています。
サラリーマンだとそれほど自分で“決断”すべき場面は少ないですが、経営者になると決断の連続ですよね。それが上手くいくと楽しいし、失敗すると悔しいですが、それを繰り返して成長していくのかなと思います。悩むことはたくさんありますが(笑)
—介護事業所の開業を検討されている方に、経営や資金繰りの面で何かアドバイスはありますか?
宮永社長:
処遇改善加算といって、要件を満たした事業所に介護報酬の加算が支払われる国の制度があります。「必要不可欠な介護職員の収入をもっと増やして人手不足を解消しよう」という目的で創設されたものであり、事業所は、加算として入ってきたお金は全額を職員に配分しなければならないルールとなっています。
ここで注意しなければならないのは、処遇改善加算は、役員には支払われないという点です。我々のように小規模な事業所では、特に立ち上げ当初は、社長はじめ役員がメインで現場で働き、足りない部分をパートや従業員に補ってもらうことになると思うのですが、その場合でも、役員は1円も受け取れず、全て従業員にのみ分配することになります。
新しく介護事業所を始められる方は、ここをきちんと理解して役員の選出をした方が良いと思います。
地域に根付いたサービスを
—5年後、10年後はどのようになっていたいですか?
宮永社長:
将来的には現場は従業員に任せて、ケアマネージャーや、介護学校の講師へと仕事の領域を広げていきたいと思っています。
介護の仕事では、地域との関わりがとても重要だと思います。私自身、地域に根付いて生きていきたいという気持ちが強くあります。
私はこの住吉の出身で、地域の行事に出てみこしをかついだり、青年壮年団に所属して地域の防災リーダーをしたり、老人会とも頻繁に交流をしていたので、開業するならここでという気持ちがありました。
ケアマネージャーになると、さらに地域の困っている方のお力にもなれるという思いがあります。
介護学校の講師は、次の世代を担う人材を育てていきたいですし、そこで出会った優秀な生徒を自社で育成できるというメリットもありますしね。介護人材の育成は社会的にも求められているし、良いやり方だと思っています。 現場の楽しさ、難しさを人に教えてあげて、介護の仕事の楽しさを伝えていきたいですね。
この記事を執筆した人
公認会計士・税理士/クロスト税理士法人
松本昌晴
この記事を執筆した人
公認会計士・税理士/クロスト税理士法人 松本昌晴
会計事務所を開業してから35年以上になります。この間、500件以上の会社設立の無料相談にかかわりました。会社設立について悩んでいる人達に、「悩みを解決するための情報を提供したい」という想いから本サイトを立ち上げました。