会社設立時のメリット5点とデメリット3点
会社設立には、さまざまなメリットがあります。信用力の向上や節税効果などの代表的なものに加え、人材採用や資金調達の面でもメリットがあります。
一方でデメリットがあることも忘れてはなりません。設立やその後の手続きに時間がかかったり、経理やその他の業務が増えたりと確かなデメリットも存在します。
ある程度の売上がある場合、ほとんどの人が効果のある会社設立(法人化)ですが、デメリットを認識した上で設立すべきでしょう。
そこで本記事では、会社設立時におけるメリットとデメリットについて、実際に会社設立した方たちの声を取り入れつつ解説します。会社設立にはメリット・デメリットの双方があるため、ご自身の状況を踏まえて、最適な選択をとることが重要です。
会社設立時のメリット
最初にメリットについて紹介します。当然、ここで紹介する以外にもメリットはありますが、多くの方が感じる代表的なものを挙げました。会社設立における主なメリットは下記の5つが挙げられます。
- 節税できる
- 信用力が上がる
- 資金調達しやすくなる
- 決算期を自分で決めることが出来る
- 人の採用がしやすくなる
それぞれについて、具体的に解説します。
節税できる
「節税」という観点から見た時にも、会社設立のメリットがあります。
年間所得500万以上は法人化のメリットあり
具体的には、年間所得が継続的に500万円を超えてくるようになると、法人化した方がメリットが多いと言えます。もちろん、所得が増えるに従って事務的なコストや各種ランニングコストも増えていくことが考えられるため、税理士さんとの相談は必須です。
ただ、おおむね500万円を超えれば、法人化のメリットがあるといえます。近年では初回無料で相談に応じてくれる税理士さんも増えているため、調べてみると良いでしょう。
節税のメリット3つ
具体的な節税のメリットは次の3つが挙げられます。
所得税と法人税における税率の差が異なる
日本の税法では、個人事業は累進課税が適用されるため、所得が増えるに従って税金が増えていきます。そのため、ある一定のライン(年間500万円程度)を超えると法人化のメリットが出てきます。超えたタイミングで1度は法人化を検討すべきです。
経費処理できる範囲が広がる
生命保険や自宅兼事務所、自動車など、法人にした方が経費として計上できる幅が広がります。これまでは経費とされなかったものが計上されれば、当然税金は安くなるため効果は大きいと言えるでしょう。
家族への給与を経費扱いにできる
個人事業主の場合、原則的に家族と共に事業をしている場合、家族への給与を経費にすることは出来ません。例外として青色事業専従者給与を申請すれば可能ですが、法人の場合はそういった手続きなく、家族に従業員になってもらい給与を支払うことが可能です。もちろん、給与は経費扱いになります。
家族を従業員にすると、所得税や住民税が分散できるため、世帯としての可処分所得が増える可能性があります。
節税における考え方は人それぞれですが、ある程度の所得になると法人化するメリットは多いと言えます。
信用力が上がる
昨今の個人事業主(フリーランス)の増加に伴い、たとえ個人事業主であっても一定の信用は得られるようになりました。しかしそれは、ある程度現代の流れを掴めている人の話で、今もなお個人よりも法人の方が取引の際の信用度は高いと言えます。
実際に一般の人から見た信用度は個人事業主よりも法人の方が高く、中には取引先を法人に限定しているところもあります。
優秀な人材が集まりやすくなる
人材採用の面でも法人化した方が優秀な人材が集まりやすくなります。自分か入社希望者だと思って想像してみてください。同じ給与で同じ業務内容だった場合、個人事業主よりも「株式会社〇〇」に入りたいと思いませんか。世間の多くの人がこうした考えを持っています。
業務内容や給与は同じでも、社会的信用や安心と言った面で、優秀な人材が集めやすくなることも法人化のメリットです。
社会的な信頼性があがる
法人化すると、対外的な信頼度が増します。取引先 (販売先・仕入先) から個人事業主に比べて信頼を得られます。取引する際、会社を相手にするのか、個人を相手にするのかを考えると、ビジネス拡大のチャンスも増えると言えます。
資金調達しやすくなる
先で紹介した「信用」の内容とも若干重複しますが、資金調達が比較的楽に行える点も法人化のメリットの1つです。
事業を行うにあたり資金が必要になると、代表的な方法として金融機関からの融資があります。この融資交渉は、個人事業主の場合は困難を極めますが、法人の場合は基準が緩やかな傾向があります。
金融機関からの融資も通りやすくなる
個人事業主は事業目的の融資を受けることは法人に比べると難しく、仮に借り入れ出来たとしても人的補償を求められるケースが多い傾向があります。法人化することで金融機関からの信用が得られ、融資などが通りやすくなることを考えると大きなメリットと言えるでしょう。
当然、金融機関以外からの資金調達も優位に働きます。
実態としては、個人事業主から法人に形式的に変更しただけにもかかわらず、社会的な評価は格段と上がります。
法人は財産管理が厳格であり、損益計算書と貸借対照表の作成が必須となるため、金融機関としては明確な融資判断が可能となり、広く資金調達の可能性が広がるのです。
このように法人の場合は、個人事業主に比べて手間や管理が必要ですが、一方で金融機関などからの資金調達しやすいというメリットがあります。
決算期を自分で決めることが出来る
個人事業主から法人化するメリットとして、決算期を自由に決められる点も挙げられます。
繁忙期を避けて余裕を持った決算ができる
個人事業主の事業年度は、1月1日から12月31日で、これを自由に変更することはできません。しかし法人化すると決算期(事業年度)を自由に設定することが可能です。例えば4月1日から3月31日にしたり、7月1日から6月30日にしたり、個人事業主と比べればその自由度の高さが伺えます。これにより、事業における繁忙期を避けて決算期を設定することが可能となります。余裕を持った決算ができるという点はメリットと言えるでしょう。
また、この決算期の変更も株主総会によって簡単に変更できます。これまでは3月末日としていた決算期を2月末日とするなど、税金対策や税制変更に伴う対策として活用できます。
1期目の決算期を長くして消費税の免税期間を伸ばす
こうしたメリットを最大限受けるため、多くの法人では、決算期を長くする傾向があります。
例えば2月15日に設立した場合、2月1日~翌年1月31日を決算期とし、1期目のみ2月14日~翌年1月31日が決算期となります。5月11日設立の場合は、5月1日~翌年4月30日を決算期とし、1期目のみ5月10日~翌年4月30日と出来ます。
なぜ決算期をずらすかというと、事務手続き上の無駄を省いたり、消費税の免税期間を伸ばしたりするためです。例えば前述の2月15日の設立の場合、事業年度を3月1日から翌年2月末日とすると、当法人の第1期は2月15日から同年2月末日までとなります。
こうすると1期目が2週間前後しかないことになり、消費税の免税期間などで不利になります。そのためなるべく1期目を長く設定した方がメリットが受けられるのです。
このように会社の事情に合わせて、自由に決算期を設定できることは法人化のメリットと言えます。
人の採用がしやすくなる
会社設立の5つ目のメリットとして、人材採用がしやすくなる点が挙げられます。前述の通り、採用される側からしたら「株式会社〇〇」や「合同会社〇〇」というように、法人化された組織の方が信用度は高いと言えます。
もちろん個人事業として堅実な成長を遂げていたとしても、世の中のイメージ的に個人事業よりも会社組織で事業をしている方が信用されやすいでしょう。
こうしたイメージは人材採用に大きく影響します。やっている内容が個人事業と法人で一緒だとしても、悪いイメージはなかなか拭いきれないのが人の性です。法人の方が好印象を持たれる理由として以下の点が考えられます。
- 法人の場合は個人事業と違い、給与体系や有給休暇、残業手当などが明確化されている場合が多いこと。
- 法人の場合、従業員の社会保険料を半額負担してくれること。
- 福利厚生に関しても、個人事業より充実しているイメージがあること。
求職者の仕事を選ぶ基準は人それぞれ異なりますが、大きな基準の1つとして「待遇面のよさ」が挙げられます。個人事業主よりも法人の方が待遇面が良いイメージがあるため、人材採用においても優位になる可能性が高いと言えます。
会社設立時のデメリット
次にデメリットについて解説します。前述までの話を聞いて、会社設立はメリットしかないと思われがちですが、当然デメリットもあります。何度もいいますが、メリット・デメリットを両方考えたうえで、最適に判断しましょう。
会社設立における主なデメリット3点は下記の通りです。
- 会社設立費用/時間がかかる
- 経理業務の煩雑化
- 損金算入できる交際費の金額に限度額がある
それぞれについて、詳しく解説します。
会社設立費用/時間がかかる
1つ目のデメリットは、様々は費用や手間がかかる点です。
会社設立のための費用は20万以上
法人化するためには必ず会社設立手続き費用が必要です。例えば株式会社を設立する場合、公職役場にて定款の作成を行ったり、法務局で登記申請手続きを行ったりする必要があります。ここだけで手間がかかる上、定款認証手数料と登録免許税をあわせて20万円以上の負担が必要です。
登記内容の変更や廃業の際にも手続きと費用が必要
会社設立後に登記内容に変更が生じた場合、登記変更の手続きと費用が必要です。
特に多いケースは、本店所在地の変更や目的、役員の変更などがあります。変更する度に費用がかかることは大きなデメリットとなり得るでしょう。
さらに廃業の際にも費用がかかります。解散・清算人選定の登記、清算結了登記などの費用が必要で、ありとあらゆる処理に費用と手間がかかります。
法人住民税は赤字であっても支払いが必要
メリットの項で節税効果について解説しましたが、逆の見方をすると税金面での負担は増えます。特に注意すべきなのは、法人が納める地方税の1つである「法人住民税」です。
法人住民税は、所得に応じた法人税額に対し住民税率を乗じた「法人税割」と、法人における資本金などの額と従業員数などの内容をもとに算出される「均等割」の2つをもって計算します。
この2つの内容の中でも、「均等割」についてはたとえ赤字であっても支払いが必要です。事業規模が比較的小さい会社の均等割分は約7万円です。つまり法人化した事業者は少なくとも年7万円以上の税負担が必要となります。
このように法人には、様々な手続きにおいて登記などの処理が必要であり、その都度費用も発生します。留意しておきたいデメリットの1つです。
経理業務の煩雑化
会社設立における2つ目のデメリットして、経理をはじめとした事務業務の煩雑化が挙げられます。
法人組織の場合、個人事業主に比べて厳格な会計ルールがあります。当然、ルールに則った会計処理を的確に行う必要があるため、個人事業主よりも手続きにおける手間がかかります。
税金の申告を考えても、個人事業主における所得税の申告よりも、法人における法人税の申告の方が煩雑です。法人税の計算を社内で完結することは難しく、税理士や公認会計士などの専門家への依頼は必須といえるでしょう。
もちろん個人事業主の方でも専門家に依頼することはありますが、一般的に報酬は法人の方が高くなります。(事業規模にもよります。)
経理事務以外にも、様々な業務が発生します。例えば社会保険や労働保険に関する手続きは、人の入れ替わりにより日常的に発生します。さらに株主総会の開催や役員変更登記など、求められる手続きは個人事業主の比ではありません。
法人化するということは、こうした事務業務が増えることは留意しておく必要があるでしょう。
損金算入できる交際費の金額に限度額がある
最後3つ目のデメリットとして、損金算入できる交際費の金額に限度額がある点が挙げられます。
交際費とは「交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為(以下「接待等」といいます。)のために支出するもの」と定義されており、つまり取引先や事業関係者に対する接待や贈り物などにかかる費用のことを指します。
法人の場合、この交際費に上限が設けられているため注意が必要です。
個人事業主の場合は、接待などの交際費における上限はなく、常識の範囲内であれば青天井でつけることが可能です。(もちろん過度に計上すれば税務調査で指摘されることもあります。)
しかし法人の場合は、交際費を損金算入する際の上限が決まっており、具体的には資本金1億円以下の法人は、1年間で800万円までとされています。
設立1年目から800万円を越すケースは稀ですが、会社設立するのであれば頭に入れておくべきデメリットです。
会社設立時メリットデメリットのまとめ
個人事業主として仕事する場合と、法人として仕事する場合では、さまざまな面で違いがあります。ただ大きく分けると税金面での違いがあります。
法人になれば法人税や登録免許税、法人住民税などの負担があります。一方で、個人事業主よりも経費にできる範囲が広くなり、高い節税効果が期待できます。また個人事業のように累進課税ではない点も魅力でしょう。
税金面をはじめ、資金調達や人材採用など様々なメリットのある法人化ですが、各々のケースによって法人化がメリットとなり得るか、逆にデメリットとなるか異なります。
一度専門家に相談して、自分の場合はメリットの方が上回るのかどうかを判断してもらうことをおすすめします。
この記事を監修した人
公認会計士・税理士/クロスト税理士法人
松本昌晴
この記事を監修した人
公認会計士・税理士/クロスト税理士法人 松本昌晴
会計事務所を開業してから35年以上になります。この間、500件以上の会社設立の無料相談にかかわりました。会社設立について悩んでいる人達に、「悩みを解決するための情報を提供したい」という想いから本サイトを立ち上げました。